PDCAサイクルで改善する投資意思決定 – 計画づくりが苦手な経営者のために

「この商品、いけそうな気がする」
「あの設備、そろそろ買い換えないと」

経営者の皆様は、日々このような判断を迫られているのではないでしょうか。しかし、具体的な計画がないまま意思決定をしてしまうと、その結果を適切に評価できず、次の判断に活かすことができません。

計画なき投資が引き起こす問題

典型的な例をご紹介しましょう。

ある製造業では、季節性の強い商品を扱っているにもかかわらず、具体的な販売計画なしで生産量を決定していました。「去年はこのくらい売れたから」という勘と経験だけで判断し、結果として毎期多額の在庫を抱えることになっていました。

また、ある卸売業では、自社ブランド製品の展開において、市場調査や販売計画が不十分なまま次々と新商品を投入。売れ残り在庫の処理も終わらないうちに、新たなブランド立ち上げを始めてしまい、経営資源が分散する結果となりました。

「計画を立てる」ことへの誤解

「計画といっても、見込み生産なんだから、どうせ当たらない」
「計画を立てている時間があったら、実行に移したほうがいい」

こういった声をよく耳にします。確かに、100%正確な予測は不可能です。しかし、計画の目的は「完璧な予測」ではありません。計画を立て、実行し、振り返ることで、次の判断に活かせる経験を積むことにあります。

では、具体的にどうすればよいのか

計画作りに苦手意識がある経営者の方でも、すぐに始められる取り組みをご紹介します。

1. まずは簡単な数値目標から始める

「計画を立てる」と聞くと難しく感じるかもしれません。しかし、以下のような単純な数値から始めることをお勧めします:

  • 新商品の場合:「初月に○○個売れれば成功」
  • 設備投資の場合:「稼働率○○%以上で採算が取れる」
  • 新規取引先の場合:「年間取引○○万円以上を目指す」

このように、シンプルな目標から始めることで、後から「達成できたかどうか」が明確になります。

2. 記録は「いつ、何を、なぜ」の3点だけでも十分

細かい記録をとることに抵抗がある方も多いと思います。その場合は、以下の3点だけでも記録することをお勧めします:

  • いつ決めたのか:「2024年2月に決定」
  • 何を決めたのか:「新商品Aを1000個製造」
  • なぜそう決めたのか:「展示会での反応が良かったため」

これだけの情報があれば、後から振り返る際の重要な手がかりになります。スマートフォンのメモ帳やボイスメモでも構いません。

3. 振り返りは「15分」でも価値がある

「振り返りの時間がない」という声をよく聞きます。しかし、以下のような短時間の振り返りでも十分効果があります:

例:毎月末の15分間で

  • 先月立てた計画は達成できたか?
  • 達成できた(できなかった)主な理由は何か?
  • 来月に活かせることは何か?

この3つの質問に対する答えをメモするだけでも、次の判断に活かせる情報となります。

4. 部下や専門家を「相談相手」として活用する

計画を1人で考えるのは難しいものです。以下のような方々に相談することで、より現実的な計画になります:

  • 現場の責任者:実務上の課題を確認
  • 営業担当者:市場の反応を確認
  • 経理担当者:資金面での実現可能性を確認
  • 税理士・コンサルタント:専門的な視点からのアドバイス

「こう考えているんだけど、どう思う?」という気軽な相談から始めてみましょう。

5. 小さな投資案件で練習する

いきなり大きな投資の計画から始めるのはリスクが高いです。以下のような小規模な案件で経験を積むことをお勧めします:

練習例:

  • 展示会出展(予算50万円程度)
  • 小型設備の更新(100万円程度)
  • 新商品の少量試作(20万円程度)

このような小規模案件で計画→実行→振り返りのサイクルを経験することで、より大きな投資判断への自信にもつながります。

6. 時期を決めて見直す習慣をつける

「計画を立てても見直さない」という方も多いようです。以下のようなタイミングを決めておくと、見直しの習慣がつきやすくなります:

  • 毎月の月次決算書を見るとき
  • 四半期ごとの税理士面談の時
  • 決算書ができあがったとき

既存の定期的な機会に合わせることで、新たな負担を感じることなく振り返りができます。

最後に

経営判断の精度を上げることは、一朝一夕にはいきません。しかし、ここでご紹介したような小さな取り組みから始めることで、確実に判断力は向上していきます。

完璧な計画を目指すのではなく、実践しながら徐々に精度を上げていく。そんな意識で、まずは今日から始めてみませんか?

もし具体的な進め方でお悩みの点がございましたら、ぜひ当事務所にご相談ください。皆様の経営判断のお手伝いをさせていただきます。