新型コロナ対策融資と資金繰りの考え方
これから本格化する業績への影響
日本国内および世界的な新型コロナウィルス感染の拡大で、企業活動にも大きな影響が出始めています。
直接的には旅行関連業者や飲食業者が打撃を受けていますが、経済活動そのものの停滞によってこれから様々な業種に広がっていくのは確実です。たとえば建設業者が今現在手掛けている建築物は半年から1年ほど前に意思決定され、その後に着工されて、今まさに工事中という物件がほとんどではないでしょうか。そう考えると、建設業者に新型コロナの影響が出てくるのは半年後ぐらいからということになります。実際、リーマンショックの時も世間が大騒動しているときは仕事が忙しく、落ち着き始めた頃に売上が急減したというケースがありました。
資金手当てを急ぐ経営者
日本の新型コロナ感染拡大に対する取り組みは、死亡者数を抑えこむためには、医療崩壊を起こさないことが重要という考えのもとで、基本的に「自粛」レベルで感染者上昇カーブをなだらかにする戦略になっています。つまり、爆発的な感染拡大を防ぐ代償として、言い方が悪いかもしれませんが、ダラダラと感染が続く可能性もあると言えます。したがって先が見えないということになります。
経営者のみなさんは、いつ終わるかわからないこの問題に直面し、漠然とした不安を持ちながら、会社存続のために資金確保を急いでいます。
私のまわりでも、政府が打ち出した新型コロナ対策融資を借りようとする動きが加速しています。代表的な融資制度に、日本政策金融公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付、信用保証協会のセーフティネット保証などがあります。さらに信用保証協会には大きく分けて3種類の制度があり、一体どの制度を使ってどのように借入れたら良いかわからないという声も聞かれます。そこで、私なりの「考え方」をお示ししたいと思います。すべての企業に当てはまる考えではありません。あくまでも考え方にとどまりますが、借入を検討する際の参考にしていただければ幸いです。
優先して考える項目:借入期間はできるだけ長期を希望する
自ら期限の利益を放棄するべきでない
企業にとって借入期間はすべての借入金を返済するまでに猶予された期間ということであり、このことを法律用語では「期限の利益」と呼びます。期限の利益は長く続く方が資金繰りにおいて有利に働きます。
今回の新型コロナ問題で借りる資金は、売上が減少したり赤字が出たりした穴埋めとして借りる資金であり、コロナ後の利益から返済するには負担が大きくなります。平時でも借入金返済に苦労している企業も多く、そのような企業の場合は赤字の穴埋めのための借金まで返済負担が積み上がると、たちまち運転資金不足に陥るのは目に見えており、返済資金を再調達しようにも借入枠がいっぱいで対応してもらえない可能性もあります。
したがって、借入申し込みをする際には、できる限り長い期間の借入期間を希望することにしましょう。私の感覚ですが、3年では短すぎます。借入期間も融資審査の対象となるためそのとおりに承認されるかどうかは別として、運転資金で10年〜15年で対応してもらえる制度を選択して、申し込んでみましょう。その後資金に余裕があれば繰上げ返済すれば良いですし、保証料も繰上げ期間に応じて返戻されます。
リスケ中でも借りられるか
すでにリスケジュール(返済条件変更:リスケ)をしている企業でも今回の新型コロナ対策融資が受けられるのでしょうか。基本的には個別判断になるようですが、改善努力が実って業績が回復しており、返済金額も着実に増加させてきている企業に対しては前向きに取り組んでもらえるケースもあると聞きます。
融資の審査とは、返済能力があるかどうかを判断することです。自社に返済能力があるかどうかを測る物差しとして簡易キャッシュフローというものがあります。直近決算の簡易キャッシュフロー=税引き後当期純利益+減価償却費で計算し、新規借入の返済額も含めた年間返済額と簡易キャッシュフローを比較して返済能力を判断します。もちろん年間返済額より多い簡易キャッシュフローが求められるわけですが、正常返済に戻すとそのような結果が得られない可能性も高いでしょう。まずは、現行の返済額に新規分を加えて簡易キャッシュフローと比較してみてどうか。その時点でキャッシュフローが不足するようなら、コスト削減を同時に行うなどの積極的な経営改善の取り組みをアピールします。後述する経営改善計画があれば、なお説得力が増すことになります。
責任共有制度の問題
責任共有制度とは、信用保証協会と金融機関が貸し倒れリスクを共有しようというもの。従来は100%信用保証協会がリスクを負っていましたが、責任共有制度の対象借入については20%分を金融機関がリスクを負うという制度になります。
信用保証協会の制度では、責任共有制度の対象のものと対象外のものが混在しており、金融機関の支援姿勢が制度選びに影響することになります。金融機関としては債務超過などリスクが高い企業には責任共有制度対象外のセーフティネット保証4号を勧めてくる可能性もあります。この制度は売上高の減少割合が20%以上とハードルがやや高く設定されていることから、「おたくは新型コロナ融資が使えません」と他の制度を棚上げして回答されてしまう可能性もゼロではありません。ただ、信用保証協会付き融資はあくまでも金融機関から借入するものなので、その判断に従わざるを得ません。
これも交渉ごとのうちの一つなので、どうしても借入をしておきたいということならば、企業側としても交渉材料を用意する必要があります。それは、返済能力を示した経営改善計画になります。新型コロナの影響がいつまで続くかわからない状況で計画なんか作れない!というのももっともな話ですが、諦めたらそこで終わり。これまで取り組んできた改善や、今後取り組むことなどを数値計画と行動計画をセットにして提示しましょう。
すでにセーフティネット保証を借りている場合
過去にセーフティネット保証を借りている企業では、セーフティネット保証の利用も検討しましょう。セーフティネット保証は一般保証制度の融資で借り換えすることができないことになっているようです。今回セーフティネット保証を利用した場合に、既存の同保証のものを返済条件にして返済期間の長い借入を新たに受けることができれば、返済負担の軽減に繋がる可能性もあります。このあたりのことは金融機関の担当者と相談しながら進めるのが得策でしょう。
保証料や金利に気を取られがちですが、有事の資金調達ということを考えた場合にはコロナ後の資金繰りも見据えた意思決定も必要と考えます。