管理職の「任せ方」が変われば組織は変わる – 名古屋商工会議所セミナーからの学び
先日、名古屋商工会議所で「メンバーのやる気を引き出す任せ方、期待の伝え方」というテーマでセミナーを開催させていただきました。30名を超える管理職の方々との対話から、効果的な「任せ方」のエッセンスが見えてきました。
成功事例から見える「任せ方」の本質
セミナーでは、参加者の皆様から「部下に任せてうまくいった経験」を共有していただきました。そこから浮かび上がってきた成功の要素は以下の4つです:
- 部下への信頼を基盤とすること
- 仕事の目的とゴール、全体像を明確に共有すること
- 具体的な進め方は部下の主体性に委ねること
- 最終責任は上司が持つという覚悟を示すこと
これらは、単なる経験則ではありません。実は、人材育成の理論的背景とも合致する要素なのです。
なぜこの「任せ方」が効果的なのか
1. 信頼関係づくりの具体策
「信頼関係が大切」というのは誰もが知っていることですが、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
効果的なのは、まず管理職から自己開示を行うことです。自分の経験や価値観を率直に語ることで、部下も自身の考えを開示してくれやすくなります。そして、部下が語ってくれた経験や価値観に対して、しっかりと承認(アクノレッジメント)を返すことで、信頼関係が深まっていきます。
2. 目標設定の秘訣
目標は部下と一緒に作り上げることが重要です。その際、SMART原則を活用することをお勧めします。部下が考える目標は、抽象的なものや精神論的なものが出てくる可能性があります。そんなときに、以下の切り口を目標見直しのためのチェックリストとして活用すると良いでしょう。目標達成できたかどうかをあとで確認できるように具体的なものにする必要があるからです。
Specific(具体的) 「頑張る」「改善する」といった抽象的な表現ではなく、「○○を△△までに××する」というように、誰が見ても同じ解釈ができる具体的な表現にします。例えば「今期は売上を伸ばす」ではなく、「今期の第2四半期までに、A商品の売上を前年比120%にする」といった具体的な目標設定です。
Measurable(測定可能) 達成度を数値やその他の方法で測定できる目標にします。「顧客満足度を高める」という目標は、「顧客アンケートの総合満足度を5段階評価で4.0以上にする」というように、測定可能な形に落とし込みます。
Achievable(達成可能) チャレンジングでありながらも、努力すれば達成できる現実的な目標設定が重要です。無理すぎる目標は逆にモチベーションを下げてしまいます。部下の現在の能力と、少し背伸びをすれば届く目標のバランスを見極めましょう。
Relevant(関連性) その目標が組織の方針や上位目標とどのように結びついているのかを明確にします。「なぜこの目標に取り組む必要があるのか」という意義を部下と共有することで、モチベーションの維持につながります。
Time-bound(期限付き) 「いつまでに」という期限を明確にします。これにより、進捗管理がしやすくなり、適切なタイミングでの軌道修正も可能になります。
3. 部下の成長段階に応じた関わり方
部下の主体性を信じて仕事の進め方を考えさせるのは、自己効力感や自己決定感を高めるため、モチベーションマネジメントにおいてとても効果が高いと言われています。しかし、部下の成長段階によっては時期尚早ということになる可能性もあります。あくまでも部下の成長段階別にアプローチの仕方を変えて、成長段階が1〜2段階の部下に対してはまだまだ教えることがたくさんありますので、ティーチング型の関わり方をしましょう。成長段階が3〜4であると認められる部下に対しては、自分で決めることも含めてコーチング型の関わりをしながら、積極的に仕事を任せるようにしましょう。
成長段階1(初級前期):仕事を知らない・できない段階
- 具体的な手順を示しながら一つ一つ丁寧に教える
- 確認しながら進め、小さな成功体験を積ませる
- 「なぜそうするのか」という理由も含めて説明する
成長段階2(初級後期):基本的な知識は得たが、まだ自信がない段階
- 基本的な進め方は任せつつ、こまめにチェックポイントを設定
- 困ったときの相談方法を具体的に示す
- できたことを具体的に褒め、自信をつけさせる
成長段階3(中級):基本的なことは自分でできる段階
- 目標設定の段階から部下の意見を積極的に取り入れる
- 定期的な進捗確認の機会を設け、必要に応じてアドバイス
- 新しいチャレンジを促し、成長機会を提供する
成長段階4(上級):高い自律性を持って働ける段階
- 大きな方向性の提示にとどめ、詳細は任せる
- 部下の創意工夫を積極的に認める
- より困難な課題にチャレンジする機会を提供する
4. 伴走型支援の重要性
マラソンのペースメーカーのような伴走型支援は、以下のような具体的なアプローチで実現できます:
問題行動への即時フィードバック
- 問題が小さいうちに、具体的な事実を基に指摘
- 改善方法を一緒に考え、実行計画を立てる
- その後の変化を観察し、改善を認める
小さな進歩の承認
- 日々の業務の中での工夫や改善を見逃さない
- 具体的に何が良かったのかを伝える
- その行動が組織にどのような良い影響を与えているかを説明
成功体験の積み重ね支援
- 適度な難易度の課題を段階的に与える
- 成功のために必要なリソースや情報を提供
- 成功後は、何が成功要因だったかを一緒に振り返る
組織全体への波及効果
このような「任せ方」を実践することで:
- 部下のワークエンゲージメントが向上
- 人材の定着率が改善
- 戦力化のスピードが加速
- 組織全体のパフォーマンスが向上
という好循環が生まれます。
ただし、これらを実現するための前提として、組織の心理的安全性が確保されていることが重要です。失敗を過度に責めない、新しいことへのチャレンジを推奨する、といった文化づくりも、経営者の重要な役割となります。
まとめ – 管理職育成のために
セミナーで共有された成功事例は、人材育成の理論とも合致する効果的なアプローチでした。これらの知見を組織の管理職育成に活用することで、確実に組織力の向上につながるはずです。
まずは、管理職の方々に:
- 部下の小さな成長を見逃さない観察眼
- 適切な承認による自信の醸成
- 理論に基づいた育成アプローチ
これらの重要性を伝え、実践を支援していただければと思います。
当事務所では、このような管理職育成のご支援も行っております。ご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。