製造業の値上げ交渉に向けた原価計算の3ステップ
あなたが工場で作り続けている製品の原価を計算したのはいつの頃ですか?
今日は、製造業の値上げ交渉に役立つ「根拠づくり」についてお話ししていきます。
この記事を読むと、取引先に値上げの依頼をしたいけれど、根拠を示せないと悩んでいるあなたが、まずは何から着手したら良いかについて理解することができます。
値上げ交渉のためには、原価計算が必要なんです!
原材料原価、人件費、光熱費や燃料費価格が上昇の一途をたどる状況では、今まで通りの単価で仕事をしたら利益を圧迫するどころか、作るほど赤字を増やすということになりかねません。
こんな背景から、原価計算のご相談が増えてきました。
ここからは、3つのステップで話を進めます。
第1ステップ・資料集め
準備段階
まずは社内に散らばっている生産に関わる資料を集めます。具体的には、貴社の決算書を用意して、その中の「製造原価報告書」をコピーします。この製造原価報告書に記載してある勘定科目の元になる資料、データを集めることになります。
同時に、工場で生産している工程を何らかのグループに分けます。たとえば製品カテゴリー別、設備別、作業者チーム別、客先別など、貴社にとって適切な分類をしましょう。もしくは交渉相手を想定して関係するグループだけに絞って考えることもできます。
資料の探索
グループが決まったら、資料、データについてはこのグループ毎に分けて集計することを想定しながら集めます。
材料費は発注書、仕入れ先からの請求書、棚卸資料などを手掛かりに探していきます。
労務費は賃金台帳から、人をグループに分けつつ、総支給額と、総労働時間を決算期間分計算します。
減価償却費は、まず設備をグループ分けしたうえで、償却資産台帳から簿価と、当期償却額を抽出します。直接割り当てられない建物や車両などは、間接部門に割り当てます。
その他、グループに直接割り振りできない勘定科目については、グループへの配賦基準を作って割り当てます。たとえば工場の火災保険などの保険料はグループが占有している工場面積を基準にします。
第2ステップ・集計
集計表作り
集めた資料を使って、グループ別に集計していきます。エクセルの列に、売上高、材料費、外注費と入力します。この段階で限界利益=売上高ー(材料費+外注費)の欄ももうけます。
次に、製造原価報告書のその他の勘定科目、労務費、消耗品費、地代家賃、保険料、減価償却費など貴社の資料に書かれている科目をを入力します。
直接配賦が難しい科目の横のセルには、自分で決めた配賦基準(面積、設備簿価、人員数、設備台数など)を入力しておきましょう。
エクセルの一番上の行には、決算数値、グループごとの名前(製品カテゴリーA、Bなど)、製造間接部門(グループに配賦できない数字をここに入れます)を入力します。
その下には、配賦基準に使うグループ別の人員数や設備台数、面積などの配賦基準データを入力できるようにします。
データ入力
この作業で、グループ別に原価を入力するための表ができたので、ここからはひたすら集めた資料を計算しながら該当するセルに数字を入力していきます。
損益計算と加工チャージ算出
数字を入力し終えたら、グループごとに損益を計算して、どのグループの利益が良くて、どのグループの利益が悪いのかをはっきりさせます。
そして最後は、材料費、外注加工費以外の原価科目の合計値を計算し、その数値を総労働時間(工数)で割って、加工チャージを計算します。この加工チャージはグループの製品を作るときの、1時間ごとの原価ということになります。
ここから、日報などに書かれている製品ごとの工数を参考にしながら単品別の原価計算に移行します。
第3ステップ・交渉プラン検討
必要利益を確保するための限界利益率計算
交渉プラン検討の前に、貴社の決算書をもう一度準備して、必要利益を確保するための限界利益率は計算しておきましょう。具体的には、必要利益確保のための限界利益率=売上高/(固定費+必要利益)で計算します。この結果と、現行のままの限界利益率を比べてみて、その差を値上げの目安の一つとして活用することができます。
値上げ対象製品の検討
取引先にひもづいた単品別の原価計算をしてみると、大幅な赤字の製品、利益が取れている製品がはっきりしますが、その中のどの製品の値上げ交渉をするのか選びます。
ここからは、相手との力関係や、競争環境、相場観などもプラン作りにかかわってきます。
まずは、限界利益段階で赤字の製品は最悪トントンまでもっていく必要があります。
次に、利幅が薄い製品に関しては、必要利益を確保する限界利益率も参考にしながら、どこまで値上げを申し入れるか、単品ごとに検討していきます。
訪問準備
さいごに、値上げ交渉に向けてあなたの腹が固まったら、値上げのお願い文書を作成して、これまで作ってきた根拠資料をバックデータとして持参し、いざ交渉に臨みます!
値上げ交渉のためには、原価計算が必要だ!
取引先に値上げの依頼をしたいけれど、根拠を示せないと悩んでいるあなたが、まずは何から着手したら良いかについて理解することができます。
値上げ交渉の成否は、想像以上に業績へのインパクトをもたらします!!